【2024年6月可決成立】「育成就労」制度とは?技能実習・特定技能制度の改正について解説
外国人労働者の技能実習制度に代わる外国人材の新制度「育成就労」の新設等を柱とする改正出入国管理法などが、6月14日の参議院本会議で賛成多数で可決・成立しました。
外国人技能実習制度と特定技能制度のあり方については、2022年12月から16回にわたり開催された有識者会議で議論が進められ、2023年11月30日に有識者会議の最終報告書が政府へ提出されました。
そして2024年2月に行われた「外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議」を経て、3月15日に技能実習に代わる新制度「育成就労」を新設する出入国管理法などの改正案を閣議決定し、6月14日の参議院本会議で賛成多数で可決・成立しました。
この記事では、まなびJAPANの制作・監修者である弁護士の杉田昌平氏の解説を基に、新制度「育成就労」について説明します。
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参考:
出入国在留管理庁「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」
首相官邸「外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議」
解説:杉田 昌平(弁護士)
目次
育成就労制度とは?特定技能制度との関係
育成就労制度とは、現行の技能実習制度に代わる新たな外国人雇用の制度です。2024年3月15日に政府が閣議決定しました。
従来の外国人技能実習制度1号〜3号は廃止となり、新たな制度として育成就労制度が創設されます。
Global HR Strategy「技能実習法等改正法案(育成就労法法案)の分析 2024年3月17日版」を基に編集部が制作
従来の技能実習制度が国際貢献人材育成を目的としていたのに対し、新制度である育成就労制度は、人材確保と人材育成を目的としており、基本的に3年間の育成期間で特定技能1号の水準の人材に育成するとしています。
一方、特定技能制度は適正化を図った上で現行制度が存続されるため、外国人労働者の就労は特定技能制度を中心にした制度設計に移行していくことになります。
現行の企業単独型技能実習については、「単独型育成就労」として、海外の事業所に属する職員である外国人を日本へ招聘し、育成就労産業分野に属する技能を要する業務に従事させる形態の育成就労も認められることとなりました。 従来の技能実習制度と育成就労制度について、主な違いを表にまとめました。
Global HR Strategy「技能実習法等改正法案(育成就労法法案)の分析 2024年3月17日版」を基に編集部が制作
育成就労制度の受入れ対象分野・職種・人数枠
育成就労制度は、当初は非専門的分野に位置付けられますが、一定期間の育成を経て、専門的・技術的分野である特定技能1号への移行を想定されています。つまり、育成就労制度は特定技能1号への移行のための在留資格であることが明確化されました。
したがって、育成就労産業分野は、特定技能の対象産業分野の中から一部が指定される見込みです。具体的にはどの産業分野が指定されるかは、今後の省令で判明します。
また、育成就労産業分野の中でも、「労働者派遣等育成就労産業分野」と呼ばれる分野が設けられる可能性があります。この分野では労働者派遣が認められる見込みで、農業や漁業などが該当すると見られています。
Global HR Strategy「技能実習法等改正法案(育成就労法法案)の分析 2024年3月17日版」を基に編集部が制作
育成就労制度の対象として受け入れができなくなる可能性がある分野について
例えば、スーパーのバックヤードで刺身の加工などを行う場合、現行の技能実習制度では「何の仕事をするか?」という職種・作業の観点で受入れが可能でした。一方、新たな育成就労制度では、スーパーは小売業であり、飲食料品製造の産業分野には該当しないため、育成就労や特定技能の対象にならず受入れできない場合があります。
他にも、製造業でいうと自動車などに用いるプラスチック成形やゴム製品製造がメインの職場でも、技能実習制度から新制度に移行できない問題が発生します。
受け入れができなくなる産業分野への対応策
このように、現行の技能実習制度では受入れ可能な職種であっても、「新制度で受入れができない」職種が発生する懸念がありました。
しかし、2024年3月29日「特定技能の受入れ見込数の再設定及び対象分野等の追加について」の閣議決定により、特定技能制度の対象分野の追加・拡大が行われました。これにより、育成就労制度においても、同様の対象分野での受け入れが可能となると思われます。
特定技能制度において追加となる対象分野
- 自動車運送業
- 鉄道
- 林業
- 木材産業
特定技能制度において新たな業務が追加される産業分野
- 工業製品製造業分野
- 造船・舶用工業分野
- 飲食料品製造業分野
また、特定技能制度では、各産業分野において人数枠が設定されており、育成就労制度が始まる際にも同様に人数枠が設定されると考えられます。
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育成就労制度における転籍の柔軟化
育成就労制度の大きな特徴として、転籍(育成就労先の変更)が一定の要件の下で認められる点が挙げられます。
転籍が可能となるのは、「やむを得ない事情がある場合」と「本人の希望による場合」の2パターンです。本人の希望による転職の場合は、一定期間の就労経験が必要となる見込みです。
「やむを得ない場合の転籍」の範囲拡大
育成就労制度では、外国人労働者の人権保護と権利性の向上も重要な要素です。
現行の技能実習制度においても、「やむを得ない事情がある場合」には受入れ先の転籍は認められていますが、育成就労制度では「やむを得ない場合の転籍」の範囲が拡大され、手続きも柔軟化されます。
人権侵害などの法令違反が起きた場合だけでなく、例えば労働条件について契約時の内容と実態の間に一定の相違がある場合、つまり「聞いていた話と違う」といったケースでも、転籍が認められる可能性があります。
外国人労働者と認識の相違などによりやむを得ない場合の転籍が発生すると、受け入れ企業にも大きな影響があることが予想されます。こうした事態を避けるためには、労働条件通知書の提示や、本人説明の方法、説明内容を記録に残すといった実務を厳密に進めていくことが大切になるでしょう。
転籍の要件と手続き
転籍する際は、新しい育成就労先での育成就労計画の認定が必要になります。このとき、転籍先の職種が従前と異なる場合は、原則として認められません。また、転籍先事業所の適正性についても審査があります。
転籍を希望する場合、育成就労外国人本人から育成就労機構や監理支援機関、現在の育成就労実施者に申し出を行います。受け付けた関係機関は、この申し出を相互に通知する義務を負います。この義務に違反した場合の罰則も定められています。
その後、監理支援機関が新しい育成就労実施者との間で雇用契約成立のあっせんを行います。あっせんが整い次第、新規の育成就労計画認定申請を行うことになります。
転籍における補償制度の導入
このように転籍数の増加が見込まれることにより、受入れ機関における人材流出等への懸念も生じます。
受入れコストの負担については、転籍の際、転籍前の受入れ機関が負担した初期費用等について、転籍先の企業が転籍前の企業に対して適切な補償を行う制度も検討されています。
また、分野別の協議会を組織し、過度の引き抜き防止のための取組を促進することとしています。
転籍支援について
育成就労制度の転籍支援については、転籍の仲介状況等に係る情報を把握するため、外国人育成就労機構が主導する形となります。新たな転籍先を所属機関と定めた上で、育成就労計画の再策定と審査が必要となります。
なお、機構実施職業紹介事業については、公共職業安定所及び地方運輸局と連携を図りながら行われる予定で、当分は民間の職業紹介事業者の関与は認めない方針です。外国人に不法就労活動をさせる等の不法就労助長罪の罰則を引き上げ、適切な取締りを行うことも検討されています。
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外国人労働者の監理・支援・保護についての変化
外国人労働者の監理団体は、名称が「監理支援機関」に変更され、現行の技能実習制度における監理業の許可とは別に、育成就労制度の新たな要件に則った許可申請が必要になります。
申請においては、外部監査人の設置が許可要件となるほか、職員の配置、財政基盤、相談対応体制等の要件も厳格化されており、機能が十分に果たせない監理団体は許可しないと明示されています。
また、支援業務を他に委託する場合の委託先を登録支援機関に限ることとされ、実質的に登録支援機関の独占業務となることが見込まれます。
従来の外国人技能実習機構は新たな制度のもとで「外国人育成就労機構」に改組されます。特定技能外国人への相談援助業務も行わせるとともに、監督指導機能や支援・保護機能を強化するとされています。労働基準監督署や地方出入国在留管理局と連携し、法令のコンプライアンスに一層の高い水準が求められることになるでしょう。
受入れ機関について
外国人材の受入れ機関側の要件も設けられました。人材育成の観点から受け入れ人数枠を適正化するという方針です。さらに、現行の特定技能制度における分野別協議会への加入が要件とされる見込みです。
なお、優良な受入れ機関に対しては、各種申請書類の簡素化などの優遇措置が講じられます。
送出機関について
送出機関については、原則としてMOC(二国間協力覚書)締結国からのみ受入れを行い、悪質な送出機関排除に向けた取組を強化します。これが中国などのMOC非締結国からの受入れにどのように影響するか、注意が必要です。
また、これまで技能実習生が送出機関に支払った各種費用について、不当に高額なものがあったことが指摘されてきました。育成就労制度では、送出手数料の透明化等により適正な負担ルールが設けられる見込みです。
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外国人の人材育成のあり方
育成就労制度は、「対象となる外国人ごとに育成就労計画を定めた上で計画的に特定技能1号の技能水準の人材に育成することを目指す」として、計画型の在留資格となることが明記されました。
人材育成のあり方として、特定技能制度の「業務区分」の中で主たる技能を定めて「育成就労計画」を作成し、その計画に基づいて育成・就労を行うことが想定されています。つまり、分野や業務の連続性の強化により、特定技能への移行を見据えたキャリアアップの道筋を描くのが容易になると思われます。
日本語能力の向上策について
育成就労制度では、継続的な学習による日本語能力の向上を目指すため、以下のような日本語能力の要件が定められる見込みです。
- 就労前:日本語能力試験N5合格または認定日本語教育機関において相当講習を受講
- 1年目の終了時:日本語能力試験N5合格、技能検定試験基礎等合格
- 3年目の終了時:日本語能力試験N4合格、技能検定試験随時3級等または特定技能1号評価試験合格
また、特定技能1号へ移行する際の方法として、従来の特定技能制度では、技能実習を経て特定技能1号の在留資格を得る「技能実習ルート」と、技能検定3級等および日本語能力試験N4等の合格によって特定技能1号の在留資格を得る、いわゆる「試験ルート」の2つがありました。
新たな育成就労制度は、技能実習ルートがなくなり、試験ルートのみに整理されます。
この日本語能力向上のプロセスはコストがかかります。一定程度は、受入れ企業側の負担増となる可能性があると認識する必要があるでしょう。
また、地方であればあるほど認定日本語教育機関へのアクセスが難しくなるため、地域協議会を組織し、地方公共団体も参画して受入れ環境整備等に取り組むことで、地域への定着を図ることが求められています。
国内外の労働法制に精通している弁護士・杉田昌平氏の専門的な知見のもと、「外国人雇用で適用される法令」「不法就労のリスクと予防策」など、外国人雇用の実務に必要な基礎知識をまとめました。
いつ変わる?技能実習制度・特定技能制度から育成就労制度への移行スケジュール
政府は2024年3月15日に技能実習制度の廃止と新制度「育成就労」を新設する出入国管理法などの改正案を閣議決定しました。育成就労への移行は、国会での改正審議を経て、改正法が施行された後となります。
参考:NHK NEWS WEB「育成就労制度」 出入国管理法などの改正案 国会で審議入り
国会での改正法審議は2024年の4月から始まっています。施行に向けた準備期間は比較的長く、約2から3年を見込んでいます。したがって、改正法の施行は2026年〜2027年になると予想されます。
また、「育成就労制度の施行後も、制度の運用状況について不断の検証と必要な見直しを行う」とあり、5年後などに再度見直しが行われる可能性があります。加えて、永住許可の対象となる人数が増えることが予想されるため、永住許可の適正化についても言及がなされています。
現行制度で在留する技能実習生について
新しい法律が施行されるまでに入国した現行制度の技能実習生については、施行日の3カ月前までに在留資格認定証明書を取得していれば、従来の技能実習生として入国可能です。在留期間は最長で技能実習2号までとされる見込みです。
また、施行日時点で「技能実習」の在留資格で在留する人の在留期間・在留資格・技能実習計画は、そのまま従来の制度で運用されます。
解説:杉田 昌平
弁護士(東京弁護士会)、入管届出済弁護士、社会保険労務士。
慶應義塾大学大学院法務研究科特任講師、名古屋大学大学院法学研究科日本法研究教育センター(ベトナム)特任講師、ハノイ法科大学客員研究員、アンダーソン・毛利・友常法律事務所勤務等を経て、現在、弁護士法人Global HR Strategy 代表社員弁護士、社会保険労務士法人外国人雇用総合研究所 代表社員、独立行政法人国際協力機構国際協力専門員(外国人雇用/労働関係法令及び出入国管理関係法令)、慶應義塾大学大学院法務研究科・グローバル法研究所研究員。
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