外国人技能実習生とは?制度から、受け入れプロセス、権利保護まで解説

「外国人技能実習制度(以下「技能実習制度」という) 」は、外国人が日本で技術や技能を学び、帰国後母国の経済発展に役立てることを目的とした制度です。この制度により、外国人は働きながら実践的な技術を学ぶことができます。

しかしながら、技能実習制度には課題が存在し、適切な労働環境や教育プログラムの提供、人権保護の強化などが求められています。本記事では、技能実習制度の概要やメリット、課題について探っていきます。

※2023年12月現在、技能実習制度は改正に向けて審議されています。新制度「育成就労制度(仮称)」については以下の記事で解説しています。

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外国人技能実習制度とは

技能実習制度は、日本が1993年に導入した制度です。この制度の目的は、日本の技術、技能、知識を発展途上国に移転することで、その国々の経済発展を支援することです。

外国人技能実習生(以下「技能実習生」という)は、日本の企業で働きながら、特定の技術や技能を学ぶ機会を得ます。その後、彼らは自分の国に戻り、新たに得た技術や知識を活用して、自国の産業を発展させることが期待されます。

技能実習制度は技能実習生に技術を伝える「人づくり」の制度であり、労働力の調達手段ではありません。
技能実習制度にかかわる法令である「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」では、”技能実習は、労働力の需給の調整の手段として行われてはならない。”という基本理念が示されています。
しかし、制度は一部で悪用され、技能実習生が低賃金で長時間働かされるなどの 問題が報告されています。そのため、日本政府は監督体制を強化し、技能実習生の人権を保護するための措置を強化しています。

参考:厚生労働省/外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律(技能実習法)について

外国人技能実習生の役割

技能実習制度は、発展途上国から日本への技能移転を目指しています。しかし、それ以上に、彼らは日本の産業、特に人手が不足している業界に大きな影響を与えています。

貴重な労働力としての役割

前提として、技能実習制度は労働力供給のための制度ではありません。しかし、実態としては日本の人口減少と高齢化が進む中で人手が不足する産業における大きな支えとなっています。製造業、建設業、農業など、厳しい労働条件や低賃金により日本人の就業志向が低い業種での貴重な人材として活躍してくれています。

技能継承としての役割

次に、技能継承の観点から見ても、彼らは重要な役割を果たしています。日本の産業には伝統的な技術や技能も多く存在しますが、これらの技術を継承する人材が不足しています。技能実習生は、これらの技術を学び、自国に帰国した後も活用することで、日本の技術の継承と発展に貢献しています。

社会の多様性と国際交流

さらに、技能実習生の存在は、日本社会の多様性を促進し、国際交流の機会を増やしています。彼らが日本の地域社会に参加することで、日本人の国際交流の機会が増え、異文化に対する理解と共感を深めるきっかけを提供しています。

したがって、技能実習生は、労働力供給、技能継承、社会の多様性と国際交流の観点から、日本の産業に大きな影響を与えています。彼らが日本の産業に果たしている役割を理解し、適切な支援と待遇改善を進めることが重要です。

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技能実習生受け入れの流れ

技能実習生を受け入れるには、「企業単独型」と「団体監理型」2つの方式があります。

企業単独型とは、企業が海外にある支社や取引先などの関連企業から直接人員を受け入れる方式です。

一方、団体監理型は、技能実習生を受け入れるための監理団体(実習生受け入れ機関)を通じて実施される方式です。企業は監理団体と契約し、実習生の派遣や管理を委託します。監理団体は実習生の指導や労働条件の管理を行います。

技能実習生受け入れのほとんどが団体監理型で実施されています。

1.資格・条件確認

技能実習生を受け入れるには、受け入れる企業自身が一定の条件を満たしている必要があります。これには、例えば、労働基準法などの法令遵守、適切な技能・知識の教育指導体制の整備、宿泊施設の提供などが含まれます。まずは、企業がこれらの要件を満たしているか確認することが重要です。

2.技能実習計画の作成

次に、企業は技能実習計画を作成します。これには、受け入れる技能実習生の数、実習内容、実習期間など、技能実習の詳細が含まれます。この計画書は、後の手続きで重要となる書類の一つです。

3.監理団体との協議(団体監理型の場合)

企業は次に、契約した監理団体と協議を行います。監理団体は、技能実習生の保護と技能実習制度の適正な運用を支援する役割を果たします。監理団体は、企業が作成する技能実習計画に対して必要な指導を行い、作成を支援します 。

4.書類の提出・許可

企業は 必要な書類を関係省庁に提出し、技能実習生の受け入れ許可を得ます。なお、技能実習計画に関しては外国人技能実習機構、在留資格の取得・変更に関しては地方出入国在留管理局が提出先です。

5.技能実習生の受け入れ

最終的に、許可が下りれば、企業は外国から技能実習生を受け入れ、技能実習を開始します。受け入れた技能実習生に対しては、技能実習計画に基づいて指導を行います。

参考:
厚生労働省/技能実習制度 運用要領
公益財団法人 国際人材協力機構/外国人技能実習制度とは

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外国人技能実習生の権利と保護

技能実習生は、日本人労働者と同様に労働者としての権利を有しています。
受け入れを行う企業はその権利に関しても認識しておく必要があります。

基本的な権利

技能実習生とは、日本の専門的な技術や知識を学ぶために、一定の期間、日本の企業で働く外国人のことを指します。

彼らは、日本人労働者と同じように、最低賃金法や労働基準法などの労働関係法令の保護を受ける権利があります。労働関係法令では、賃金や労働時間、労働環境の安全面や衛生面などの基準が定められており、企業はそれを遵守しなければなりません。

権利保護のための体制

技能実習生の権利を保護するために、日本政府は技能実習生に対する支援・保護体制を強化しています。

例えば、外国人技能実習機構 は、技能実習生の権利が保護されるように、受け入れ企業・監理団体に対し監督や指導を行う義務があります。また、権利侵害があった場合には、労働基準監督署へ通報することもあります。

問題点と改善策

しかし、実際には、技能実習生の権利が十分に保護されていない場合もあります。過度な労働時間や低賃金、不適切な労働環境などの問題が報告されています。これらの問題を解決するために、日本政府は監督体制の強化や法律の改正、違反企業への罰則などの施策を取っています。

参考
厚生労働省/外国人技能実習制度について

外国人技能実習生を受け入れる企業のメリットとデメリット

技能実習生を受け入れることにはメリットとデメリットが存在します。
企業は、その双方を理解したうえで受け入れを検討する必要があります。

メリット

メリット1:労働力不足の解消

技能実習制度は、労働力確保の手段ではありません。しかし、技術を身につけて母国に貢献したいと考える技能実習生は、実習中も優秀な人材として活躍してくれることでしょう。
労働力不足が深刻化する中、技能実習生の受け入れは企業にとって大きなメリットとなります。特に、生産性向上や業績の安定に寄与するため、製造業や建設業などの労働集約型の業種では、多くの企業が技能実習生を活用しています。

メリット2:多様性の向上

多様なバックグラウンドを持つ技能実習生を受け入れることで、企業内の多様性が向上します。これは新たな視点やアイデアをもたらし、企業の競争力を高める可能性があります。

デメリット

デメリット1:コミュニケーションの難しさ

一方で、技能実習生の受け入れにはデメリットも存在します。その一つがコミュニケーションの難しさです。言語の壁や文化の違いから生じる誤解が、業務の効率性や職場の雰囲気に影響を与えることがあります。

デメリット2:法的な責任

技能実習生を受け入れる企業は、その生活支援や法的な手続きなどに責任を持つ必要があります。これには時間とコストがかかるため、受け入れを考える企業はこれらの負担を考慮する必要があります。

企業は以上のメリットとデメリットを把握した上で、技能実習生の受け入れを検討することが重要です。

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外国人技能実習生に関して企業が知っておくべきこと

外国人技能実習制度は、関連法令でさまざまなルールが決まっています。
技能実習生を受け入れる企業は、以下のような情報を事前に把握しておく必要があります。

法的要件

技能実習制度は、海外からの実習生が日本で技能や知識を習得するための制度です。企業がこの制度を利用するためには、技能実習計画の提出や技能実習を行わせる体制の整備など、一定の法的要件を満たす必要があります。

実習内容と期間

技能実習生が学ぶ技能や知識は、制度が許可する職種や業種に限定されます。また、実習期間は最長5年です。企業はこれらの条件を理解し、適切な実習を提供することが求められます。

人権の保護

企業は技能実習生の人権を尊重し、適切な労働環境を提供する責任があります。労働時間、休日、賃金など、技能実習生の待遇は法律で保護されています。

教育と指導

技能実習生に対する適切な教育と指導が重要です。企業は技能実習生が必要な技能や知識を習得できるように、綿密な計画を立てることが求められます。

以上のことを理解し、適切な準備と対応を行うことで、企業は技能実習生と共に成長していくことが可能です。

外国人技能実習制度の課題

外国人技能実習制度は技能実習生や受け入れ企業に多くの恩恵をもたらす制度ですが、その一方で労働問題など多くの解決すべき課題を抱えています。
ここでは、3つの課題を例に挙げてご紹介します。

課題1:労働環境の問題

技能実習生とは、日本の企業で働きながら技術や知識を学ぶ外国人のことです。しかし、彼らの労働環境には問題があります。長時間労働や低賃金、時にはパワーハラスメントといった問題が報告されています。これは、技能実習生の権利を守るためのルールが十分に遵守されていない結果といえます。

解決策としては、労働基準の厳格な遵守を求めることが重要です。また、労働基準監督署による定期的なチェックや、違反企業への厳罰化も求められています。

課題2:人材の流動性の低さ

次に、技能実習生の人材流動性の低さも課題です。現在の制度では、技能実習生が受け入れ企業を自由に変えることは困難です。これにより、良くない労働環境に閉じ込められる恐れがあります。

これを解決するためには、技能実習生がより自由に受け入れ企業を選べるよう、制度改善を図るべきです。具体的には、技能実習生が他の企業へ移ることを容易にする制度の見直しが求められています。

課題3:言語の壁

また、技能実習生は個人によって日本語能力に差がある場合があり、これが職場でのコミュニケーションを阻害します。言語の壁は彼らが十分に労働条件を理解し、自身の権利を主張することを難しくします。

これに対する解決策としては、技能実習生の日本語学習の機会を増やす ことが挙げられます。

また、企業側も多言語対応の労働環境を整備したり、「やさしい日本語」(日本語の理解やコミュニケーションに困難を抱えている人のために配慮した分かりやすい日本語)を取り入れたりするなど、お互いにコミュニケーションを取りやすい環境づくりが求められます。

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