ベトナム人技能実習生はなぜ日本を選ぶのか? 国民性や特徴も解説

ベトナム人技能実習生の数は近年増加傾向にあり、「技能実習生といえばベトナム人」というイメージが定着しつつあります。

本稿では、ベトナム人技能実習生が増加している理由や、彼・彼女らがなぜ日本を選ぶのか、ベトナム人技能実習生を取り巻く現状など基本的な情報について解説します。

※2024年3月現在、外国人技能実習制度は新制度の「育成就労制度」へ将来的に移行することが決定済みです。育成就労制度については、以下の記事で解説しています。

ベトナム人技能実習生が増加している理由

近年、技能実習生の中でベトナム人の数は増加傾向にあり、2018年には14万2883人[1]でしたが2023年には20万9305人[2]と、ここ5年間で6万人以上増えています。

ベトナム人技能実習生が増加した主な理由として「中国人技能実習生の減少」「ベトナム国内の平均賃金の低さ」が挙げられます。

中国人技能実習生の減少

かつては技能実習生の出身国として最も多いのは中国でしたが、中国が経済発展した今、わざわざ日本で技能実習をしようという人は減少傾向にあります。それにより、企業側がベトナム人技能実習生の受け入れを拡大したため、ベトナム人技能実習生増加につながったのです。

ベトナム国内の平均賃金の低さ

ベトナムの最低賃金は4つの地域に分けて示されており、4地域平均で月額417万ドン(日本円で約2万5千円)平均月収は約788万ドン日本円で約4万8千円)です[3]。日本に比べて、平均賃金が低いことが分かります。

技能実習生として日本で働けばベトナムで働くよりも短期間で多く稼げるため、外貨獲得の手段として技能実習制度を利用する人が多いといえます。

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ベトナムの基本情報

ここでは、ベトナムの基本情報を見ていきましょう。

国名ベトナム社会主義共和国
面積33万1346平方キロメートル(日本の0.88倍)
人口9890万人(2023年統計)
平均年齢31歳(2020年統計)
首都ハノイ
公用語ベトナム語
宗教仏教、カトリック、カオダイ教など
国民性勤勉、向上心旺盛、器用、家族思いなど

ベトナムは国民の平均年齢31歳、15~59歳の占める割合が65%、中でも最も多い層が25~29歳[4]と若者が多い活力にあふれた国です。

さまざまな宗教が受け入れられており、また無宗教の人も少なくないことから、宗教観は日本人に似ているといわれています。

国民性勤勉日本人と共通している他、器用な人が多いことが特徴です。細やかな刺繍がベトナムの代表的な伝統工芸であり、手先の器用さにつながっていると考えられます。

また、家族とのつながりが強く家族のために仕事に励む傾向にあり、技能実習生の多くが母国の家族に仕送りをしています。

ベトナム経済の成長率は高く、近年の世界経済低迷の影響を受けて伸び幅が減少したものの、2024年第1四半期(1~3月)の実質GDP成長率は前年同期比5.66%[5]です。

ベトナム統計総局長は「第1四半期の成長率5.66%は(通年のGDP成長率目標6.0~6.5%と比べ)高い成長率ではないが、世界経済が多くの不確実性に直面している中で、前向きな結果だ」と述べており、今後も持続的な経済成長が見込まれます。

このようなことから、日本を含めた海外企業が進出先としてベトナムに注目しており、今後各国の人材獲得競争が強まると考えられます。

ベトナム人が日本での技能実習を選ぶ理由

ここでは、ベトナム人が日本での技能実習を選ぶ主な理由を見ていきましょう。

日本に親しみを感じるから

日本はベトナムに対してODAや交通インフラの整備、ワクチンの製造支援などさまざまなサポートをし、パートナーシップを強化してきました。そのため、ベトナム人の多くが日本に好印象を持っています。

2023年に外務省が実施した「海外における対日世論調査」[6]によると、「あなたの国の友邦として、今日の日本は信頼できると思いますか。」という質問に対して、ベトナム人の68%が「とても信頼できる」29%が「どちらかというと信頼できる」と回答しています。

ベトナムの小学校や中学校、高校、大学では、日本語教育を行うところが少なくありません。また、本田技研工業株式会社(Honda)やイオンモール株式会社など日本企業が多数進出しており、ドラえもんや名探偵コナンといった日本の漫画やアニメ作品も浸透しています。

このように日常的に日本の技術や文化に触れ、日本に親近感や憧れを抱く人が多いことが技能実習生を目指す理由の1つといえるでしょう。

技能実習修了後、母国の日系企業に就職したいから

ベトナムにある日系企業に就職することを目標に、技能実習生になる人も少なくありません。

日系企業はベトナム企業よりも賃金が高い傾向があります。技能実習で技術や日本語を学べば就職の際のアピールポイントになるため、長期的な目標を持って技能実習生を目指しているのです。

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ベトナム人技能実習生を取り巻く現状

ベトナムが経済成長を続け国内の所得が増加する今、わざわざ日本で技能実習生になろうという人は減少しつつあります。

2022年の調査[7]によると、都市部の平均月収は595万ドン(約3万6千円)、農村部は386万ドン(約2万4千円)です。2012年と比較すると、都市部は約2.0倍、農村部は約2.4倍平均月収がアップしています。

都市部であればある程度の収入が見込めるため、多くの費用を負担してまで日本に技能実習に出向く必要性は薄れつつあります。

また、日本円の価値が低下する「円安」が続いていることも問題です(2024年4月時点)。円安が進めば進むほど、日本円をドンに両替したときに得られる金額は少なくなります。母国の家族への仕送りを減らしたくない場合、より多くの時間働かなければなりません。

これらに加えて、技能実習制度の問題もあります。具体的には、悪質なブローカーに多額の費用を支払うために来日前に借金をしたり、違法な長時間労働や低賃金、暴力・ハラスメント行為などが横行する不適切な環境で働かされたりするなどが挙げられます。

このような現状では、ベトナム人にとって日本での技能実習は魅力的に映らないでしょう。近年では、韓国への出稼ぎを希望する人が増えています。

一方、日本企業はベトナム人技能実習生が集まりにくくなったため、国内の経済が低迷し技能実習へのニーズが高いミャンマーに注目する動きが出ています。

しかし、人数が集まりにくくなったからといって送り出し国の乗り換えを繰り返していては、受け入れ企業の違法行為やそれによる技能実習生の失踪など、技能実習制度の問題を解決することはできません。

日本政府は技能実習制度の見直しについて議論を進め、2024年2月、将来的に技能実習制度を廃止し、育成就労制度に移行することを表明しました。

育成就労制度は、人材の確保と育成を目的としています。技能実習制度では原則認められなかった転職(転籍)について制限を緩和する他、関係機関の要件を適正化するなど、技能実習生への支援体制が強化されるのが特徴です。

受け入れ企業のコンプライアンス意識が高まり、日本が外国人労働者にとって安心して働ける国になれば、技能実習生を目指すベトナム人の増加につながるでしょう。

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ベトナム人技能実習生が重視するポイント

2章の通り、ベトナム人技能実習生は母国の家族に仕送りする人が多く、技能実習先選びで賃金を重視します。

「外国人だから」「技能実習生だから」といった理由で、不当に安い賃金に設定することは認められません。技能実習生にも日本の労働関係法令が適用されるため、賃金は最低賃金以上同一労働同一賃金遵守しましょう。

人事評価による昇給や賞与などの支給についても、不合理な待遇差を設けないよう注意してください。

採用の際は労働時間賃金など労働条件通知書に明記し、技能実習生に交付します。認識の食い違いを防ぐため、ベトナム語で作成するとよいでしょう。

参考:弁護士法人Global HR Strategy 外国人雇用相談室

[1] 厚生労働省「「外国人雇用状況」の届出状況表一覧(平成30年10月末現在)」,2019年1月15日公表,P2(閲覧日:2024年3月30日)
[2] 厚生労働省「「外国人雇用状況」の届出状況表一覧(令和5年10月末現在)」,2024年1月26日公表,P2(閲覧日:2024年3月30日)
[3] 独立行政法人労働政策研究・研修機構「最低賃金を7月に平均6%引き上げ―国家賃金評議会で合意、2年ぶり改定へ」,2024年2月公表(閲覧日:2024年3月31日)
[4] 日本貿易振興機構(ジェトロ)デジタル貿易・新産業部「ベトナム教育(EdTech)産業調査」,2021年1月公表,P6(閲覧日:2024年3月31日)
[5] 日本貿易振興機構(ジェトロ)「第1四半期のGDP成長率は前年同期比5.66%、内需に陰り(ベトナム)」,2024年4月5日公表(閲覧日:2024年3月31日)
[6] 外務省「ASEAN結果詳細(PDF)」,2024年3月15日公表,P8(閲覧日:2023年4月4日)
[7] 日本貿易振興機構(ジェトロ)「2022年版家計生活水準調査結果を公表、所得上昇で食生活に変化(ベトナム)」(閲覧日:2024年4月7日)

参考:
厚生労働省
「「外国人雇用状況」の届出状況表一覧(令和5年10月末時点)」,2024年1月26日公表(閲覧日:2024年4月20日)
「「外国人雇用状況」の届出状況表一覧(平成30年10月末現在)」,2019年1月25日公表(閲覧日:2024年4月20日)
「「外国人雇用状況」の届出状況表一覧(平成28年10月末現在)」,2016年1月27日公表(閲覧日:2024年4月20日)
「参考資料3育成就労制度の創設等に係る法案について[PDF形式:1.1MB]」,『第6回外国人介護人材の業務の在り方に関する検討会資料』,2024年3月22日公表(閲覧日:2024年4月20日)
独立行政法人労働政策研究・研修機構
「最低賃金を7月に平均6%引き上げ―国家賃金評議会で合意、2年ぶり改定へ」(閲覧日:2024年4月20日)
外務省
「ベトナム社会主義共和国」(閲覧日:2024年4月20日)
「海外における対日世論調査ASEAN」, 2024年3月15日公表(閲覧日:2024年4月20日)
独立行政法人日本貿易振興機構
「概況・基本統計」,『JETRO』(閲覧日:2024年4月20日)
「第1四半期のGDP成長率は前年同期比5.66%、内需に陰り(ベトナム)」,『JETRO』,2024年4月5日公表(閲覧日:2024年4月20日)
「2022年版家計生活水準調査結果を公表、所得上昇で食生活に変化(ベトナム)」,『JETRO』2023年5月19日公表(閲覧日:2024年4月20日)
日本貿易振興機構(ジェトロ)デジタル貿易・新産業部
「ベトナム教育(EdTech)産業調査」,2021年1月公表(閲覧日:2024年4月20日)
出入国在留管理庁,厚生労働省
「技能実習制度運用要領~ 関係者の皆さまへ~」,2024年4月公表(閲覧日:2024年4月20日)
厚生労働省,都道府県労働局,ハローワーク
「外国人を雇用する事業主の皆さまへ外国人雇用はルールを守って適正に」,2023年6月公表(閲覧日:2024年4月20日)
国連人口基金(UNFPA)
「世界人口白書2023-80億人の命、無限の可能性:権利と選択の実現に向けて」,2023年4月19日公表(閲覧日:2024年4月20日)
独立行政法人国際協力機構
「日本とベトナムのパートナーシップこれまで、そしてこれから 人と人、国と国をつなぎ、地域の平和と安定を目指して」 (閲覧日:2024年4月20日)
独立行政法人国際協力機構,B&Company株式会社
「ベトナム国産業人材育成分野における情報収集・確認調査最終報告書」, 2022年5月公表(閲覧日:2024年4月20日)
本田技研工業株式会社
「Honda Vietnam Co.,Ltd」,『HONDA』(閲覧日:2024年4月20日)
イオンモール株式会社
「海外事業」,『AEONMALL』(閲覧日:2024年4月20日)
国際交流基金
「ベトナム2022年度」(閲覧日:2024年4月20日)}
山内沙紀,小田翔子
「「日本で働きたいですか?」円安で変化するアジアの若者たち」,『NHK』,2022年11月14日公表(閲覧日:2024年4月20日)
外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議決定
「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議 最終報告書を踏まえた政府の対応について」,2024年2月9日公表(閲覧日:2024年4月20日)


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