ミャンマー人技能実習生が企業に人気な理由 受け入れの注意点も解説
技能実習生の中でのミャンマー人の割合は、近年増加傾向です。多くの日本企業がミャンマー人技能実習生を受け入れる背景には、ミャンマー人の国民性があります。
本稿では、ミャンマー人の国民性や、ミャンマー人技能実習生を受け入れる際に企業側が注意すべきこと、受け入れの流れなどを解説します。
※2024年3月現在、外国人技能実習制度は新制度の「育成就労制度」へ将来的に移行することが決定済みです。育成就労制度については、以下の記事で解説しています。
目次
ミャンマー人技能実習生が日本企業から注目される理由
出入国在留管理庁が公表した資料によると、日本に在留するミャンマー人の数はこの10年増加傾向にあり、2023年6月末時点でのミャンマー人中長期在留者は6万9613人です。そのうち、2万940人が技能実習生として就労しています。
技能実習生の出身国は1位ベトナム、2位インドネシアで、対前年末増加率はベトナムが5.2%、インドネシアが27.4%です。ミャンマーの対前年末増加率は22.9%と、ネパール、インドネシアに次いで高く、多くの企業がミャンマー人技能実習生を受け入れていることが分かります。
なぜミャンマー人技能実習生が日本企業から人気かというと、真面目・勤勉・親切・温和などと表現されることが多いミャンマー人の国民性が挙げられるでしょう。
ミャンマーは国民の大多数が敬虔な仏教徒であり、お釈迦様のように悟りを開かない限り永久に生まれ変わり続ける「輪廻転生(りんねてんしょう)」を信じています。
輪廻転生の苦しみから逃れるには現世で功徳を積む必要があるため、「嘘をつかない」「笑顔を絶やさない」「他人を悲しませない」などの善行に努める傾向があります。そのことが真面目や親切といったミャンマー人の国民性につながっているといえるでしょう。
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ミャンマー人技能実習生の出身国、ミャンマーの基本情報
ここでは、ミャンマーの基本情報を見ていきます。
国名 | ミャンマー連邦共和国 |
面積 | 67万6578平方キロメートル(日本の約1.8倍) |
人口 | 5797万人(2023年推計値) |
首都 | ネーピードー |
民族 | ビルマ族(約70%)、その他多くの少数民族 |
公用語 | ミャンマー語(ビルマ語) |
宗教 | 仏教(約90%)、キリスト教、イスラム教、 ヒンドゥー教など |
年齢 | 中位数年齢(人口を年齢順に並べて2等分する 境界点に当たる年齢)28.6歳(2021年時点) |
平均月収 | 15万8900チャット (2018年第1四半期時点での統計) |
最低賃金 | 日額5800チャット ※日額4800チャット (600チャット/時間×8時間)+日額手当 1000チャット (2023年10月時点) |
国立社会保障・人口問題研究所の統計資料によると、ミャンマーは中位数年齢が28.6歳、生産年齢人口(15~64歳)の割合が66.6%と若い世代が多いのが特徴です。
日本の中位数年齢は49.0歳、生産年齢人口割合は59.4%のため、日本に比べてミャンマーは若年層が厚いといえます。
また、平均月収は15万8900チャット(日本円で約1万1千円)、最低賃金は日額5800チャット(日本円で約400円)です。賃金水準が低いことから、多くの人がタイなどの近隣国に出稼ぎに出ています。
日本での技能実習についてもニーズが高く、その理由として日本の「高い技術力」「安心できる労働者保護施策」が挙げられています。
ただし、タイなど近隣国と異なり、日本での就労や技能実習には日本語の習得が必要です。2023年7月2日に実施された日本語能力試験のミャンマー人応募者は10万人を超えており、ニーズの高まりがうかがえます。
増加の理由は、2021年2月のクーデターにより非常事態宣言が継続し、国外での就労を目指す人が増えたためです。日本企業は「日本語能力試験への合格」を採用の要件にするところが多く、その分受験者が増えたと考えられます。
なお、日本語とミャンマー語(ビルマ語)は、基本的な言葉の並びが主語・目的語・動詞の順のSOV型です。基本の語順が同じであるため、ミャンマー人は日本語の習得が比較的容易といわれています。
ミャンマーの政変がミャンマー人技能実習生に与える影響
2021年の政変から3年ほどが経ち、ミャンマー国内の日常生活は政変当時の混乱から落ち着きつつあります。そのため、「技能実習生が来日できない」などの受け入れに関する大きな影響はありません。
しかし、ミャンマーでは国軍が非常事態宣言を延長し、経済が低迷しています。国内の雇用悪化を受けて2章の通り日本での就労への関心が高まっており、クーデター前にはあまり見られなかった高学歴の若者たちが技能実習生を目指すという動きが出ています。
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ミャンマー人技能実習生を受け入れる際に、企業側が注意すべきこと
ミャンマー人技能実習生を受け入れる際に、企業側が注意すべき主なポイントは以下の通りです。
- 人前でミスを指摘しない
- 意見を聞くときは個別に聞く
- 仕事の量を調節する
- 曖昧な表現をしない
人前でミスを指摘しない
ミャンマーでは親や教師、僧侶以外が人前で叱ることが基本的にはないため、ミャンマー人技能実習生にミスを指摘する場合は個別に穏やかな口調で伝えましょう。
人前で叱責するなどの行為は、日本人が思っている以上にミャンマー人技能実習生を深く傷つける可能性があり、退職・帰国にもつながりかねません。普段から良い点を見つけ、褒めて伸ばすことをおすすめします。
意見を聞くときは個別に聞く
ミャンマー人技能実習生に意見を求めるときは、集団の中ではなく個別に質問しましょう。ミャンマー人は親や教師の言うことをよく聞き、言いつけを守る傾向があります。その分人によっては自分の意見を表明するのが不得意な場合があるため、個別に意見を聞き取るとよいでしょう。
仕事の量を調節する
個人のキャパシティオーバーを防ぐため、任せる業務量をコントロールしましょう。
ミャンマー人は「日本でたくさん働いて母国の家族に仕送りしたい」と考える人が多く、勤勉な傾向があります。また、断ることが苦手な人も多いようです。このようなことから、自分のできる範囲外の仕事まで抱え込んでしまうケースが考えられます。
曖昧な表現を避ける
日本語は曖昧な表現が多く、ミャンマー人技能実習生に意味が伝わらないケースが起こり得ます。
ミャンマー人技能実習生とコミュニケーションをとる際は、できるだけ短く、はっきりと最後まで言い切る「やさしい日本語」を使うのが効果的です。
参考:弁護士法人Global HR Strategy 外国人雇用相談室
ミャンマー人技能実習生を受け入れる流れ
技能実習生の受け入れ方法は、監理団体を通して受け入れる「団体監理型」と、企業が海外の支店や合弁企業、取引先企業などの従業員を受け入れる「企業単独型」の2パターンです。ほとんどの企業が団体監理型で受け入れています。
団体監理型の場合、実習実施者(受け入れ企業)が日本の監理団体に受け入れたい人数や雇用条件などを伝えます。その後、監理団体がミャンマーの送り出し機関と連携を取り、条件に合った人材を企業に紹介、企業が人材と面接して採用するという流れです。
監理団体の利用には入会手続きや入会費、監理費などの費用がかかりますが、技能実習に関わるさまざまなサポートを受けられるのがメリットです。技能実習開始後は、適切に技能実習が行われているか、監理団体によって確認・指導が実施されます。
参考:弁護士法人Global HR Strategy 外国人雇用相談室
ミャンマー人技能実習生の受け入れ可能人数
技能実習生は何人でも受け入れられるわけではなく、受け入れ方法や常勤従業員の総数などによって上限が定められています。下表は、団体監理型で1号技能実習生を受け入れる場合の人数枠です。
【団体監理型の技能実習1号の基本人数枠】
実習実施者の常勤職員総数 | 技能実習生の人数 |
---|---|
301人以上 | 常勤職員総数の20分の1 |
201~300人 | 15人 |
101~200人 | 10人 |
51~100人 | 6人 |
41~50人 | 5人 |
31~40人 | 4人 |
30人以下 | 3人 |
なお、介護、建設分野など、特定の職種・作業に関しては別途人数枠が定められています。
参考:弁護士法人Global HR Strategy 外国人雇用相談室
国内外の労働法制に精通している弁護士・杉田昌平氏の専門的な知見のもと、「外国人雇用で適用される法令」「不法就労のリスクと予防策」など、外国人雇用の実務に必要な基礎知識をまとめました。
将来的に技能実習制度は廃止、育成就労制度へ移行
技能実習制度は途上国への技術移転という国際貢献のための制度ですが、実際は足りない労働力の確保のために技能実習生を受け入れる企業が少なくありません。
このように制度の目的と運用実体が懸け離れていることから、2023年に政府は将来的に技能実習制度を廃止し、人材の育成と確保を目的とした育成就労制度に移行することを表明しました。
育成就労制度では、受け入れた外国人材の技能と日本語能力の水準を一定以上(特定技能1号のレベル)まで引き上げ、長期的に日本で活躍してもらうことを目的としています。
新制度では転籍の制限が緩和されるなど現行制度からの変化があるため、今後の動向を注視する必要があります。
なお、育成就労制度は公布日から原則3年以内に施行するとしており、2024年の国会で成立すれば2027年までに運用が開始される見込みです。また、新制度施行前に入国した技能実習生については、経過措置として最大3年間の在留が認められます。
育成就労制度について詳しくは、こちらの記事を参考にしてください。
参考)
OTIT外国人技能実習機構
「統計」, (閲覧日:2024年4月2日)
「特定の職種及び作業に係る技能実習制度運用要領(介護職種他)」, (閲覧日:2024年4月2日)
出入国在留管理庁
「特定技能制度及び育成就労制度について」,2024年3月27日公表, (閲覧日:2024年4月2日)
「【第1表】国籍・地域別 在留外国人数の推移」,2023年10月13日公表,(閲覧日:2024年4月2日)
外務省
「ミャンマー基礎データ」, (閲覧日:2024年4月2日)
国立社会保障・人口問題研究所
「-人口統計資料集(2023)-」, (閲覧日:2024年4月2日)
JETRO
「概況・基本統計」, (閲覧日:2024年4月2日)
「最低賃金を5年ぶりに実質的に引き上げ(ミャンマー)」, (閲覧日:2024年4月2日)
「日本語能力試験応募者が10万人超え、日本での就労に高い関心(ミャンマー)」, (閲覧日:2024年4月2日)
「ミャンマーが非常事態宣言を再延長、延長は5回目(ミャンマー)」, (閲覧日:2024年4月2日)
話し言葉のやさしい日本語の活用促進に関する会議
「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン話し言葉のポイント」,2022年10月公表, (閲覧日:2024年4月2日)
厚生労働省
「2019年海外情勢報告(本文)」, (閲覧日:2024年4月2日)
出入国在留管理庁,厚生労働省
「技能実習制度運用要領~関係者の皆さまへ~」,2023年4月公表, (閲覧日:2024年4月2日)
JITCO
「外国人技能実習制度とは」, (閲覧日:2024年4月2日)
技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議
「最終報告書」,2023年11月30日公表, (閲覧日:2024年4月2日)
一般財団法人外国人材共生支援全国協会
「外国人材「育成就労」新設 閣議決定」,2024年3月18日公表, (閲覧日:2024年4月2日)