【フィリピン人材雇用】DMW(旧POEA)、MWO(旧POLO)の手続きを解説
「フィリピン人材雇用では、POEAへの申請が必要」と聞いたことがある人は多いのではないでしょうか?POEAは海外各国の企業がフィリピン人材を雇用する際に、必ず関わる機関ですが、2022年秋の省庁編成によりDMWに統合されています。
本稿では、DMW(旧POEA)とは何かという基本から、フィリピン人材雇用で必要な手続きまで具体的に解説します。
国内外の労働法制に精通している弁護士・杉田昌平氏の専門的な知見のもと、「外国人雇用で適用される法令」「不法就労のリスクと予防策」など、外国人雇用の実務に必要な基礎知識をまとめました。
目次
DMW(旧POEA)とは?
DMWとは、「Department of Migrant Workers:移住労働者省」の略称で、海外で働くフィリピン人の権利保護や福利厚生の促進などを目的に設立されたフィリピンの政府機関です。2022年秋にフィリピン政府が省庁編成を実施し、POEAを含む7つの省庁や組織がDMWに一本化されました。
これまで海外企業がフィリピン人を雇用する場合、旧POLOを通して旧POEAに申請し、適正な雇用主として認定を受ける必要がありました。その複雑なプロセスを、フィリピン人雇用のハードルと感じる企業も少なくなかったでしょう。
これにより、日本企業にとってはフィリピン人雇用の効率化が期待されています。
MWO(旧POLO)とは?
MWO(旧POLO)とは、世界各国にあるDMW(旧POEA)の出先機関のことです。日本にはMWO東京(在東京フィリピン共和国大使館 移住労働者事務所)と、MWO大阪(在大阪フィリピン総領事館 移住労働者事務所)の2つがあります。
MWOはこれまでPOLOという名称でしたが、DMWの新設に伴い名称が変更されました。
MWOはDMWの出先機関として日本で就労するフィリピン人の権利を守る活動をしています。そのため、日本企業がフィリピン人を雇用する際、基本的にMWOへの申請を避けることはできません。
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なぜMWOに申請しなくてはならないのか?
なぜフィリピン人雇用でMWOへの申請が必要かというと、最終的にフィリピン人材にOEC(Overseas Employment Certificate:海外雇用許可証)を取得してもらうためです。
フィリピン人はOECがなくては海外で働くことができません。このOECを取得するためには、DMWのシステムに雇用主の情報が登録されている必要があります。
そのためにはMWOに申請し、DMWシステムに情報を登録してもらう必要があるため、フィリピン人雇用で必須の手続きといえるのです。
フィリピン人雇用はフィリピン政府公認の送り出し機関を介すのが原則
フィリピン政府は海外企業による直接雇用を原則禁止しているため、フィリピン政府の認可を受けた現地の送り出し機関を介して採用活動を行うケースがほとんどです。
フィリピン政府の認可を受けた送り出し機関は、PRA(Philippine Recruitment Agency)とも呼ばれます。
日本企業がフィリピン人材を雇用する場合、送り出し機関を探し、契約を結ぶところからスタートします。なお、送り出し機関はDMWの公式Webサイトから検索可能です。
フィリピン在住のフィリピン人を雇用する流れ
フィリピン在住のフィリピン人材を雇用する場合、下記の流れで受け入れます。
- DMWの公式Webサイトから送り出し機関を選定し、契約を結ぶ
- 申請書類を作成し、MWO東京またはMWO大阪に提出
- MWOの審査を通過後、MWOの承認印が押印された提出書類が返送される
- MWOで面接を受ける
- 面接通過後、返送された書類一式を送り出し機関に提出、送り出し機関を通してDMWシステムに情報が登録され、DMWの認証印が押印された書類が返送される
- DMWシステムへの情報反映後、送り出し機関がフィリピン人材の募集を開始
- 候補者を選定し、現地またはオンラインで面接
- 内定者が決まったら、受け入れ企業が在留資格認定証明書の交付を地方出入国在留管理局に申請
- 交付された在留資格認定証明書(COE/Certificate of Eligibility)の原本をフィリピン人材に送付
- フィリピン人材本人が現地の日本大使館に行き、在留資格認定証明書を提出、ビザの発給を受ける
- フィリピン人材が送り出し機関に申請し、海外労働福祉庁実施の出国前オリエンテーションを受ける
- フィリピン人材が送り出し機関に申請し、出国前に健康診断を受診する(ビザの発給、出国前オリエンテーション、健康診断は同時進行することも可能)
- フィリピン人材本人がBM Online(Balik-Manggagawa Online Processing System)のアカウントを作成し、OECの発行を申請する(在留資格によっては、送り出し機関を通して申請することもある)、OECの発行は手数料が必要
- OEC発行後、フィリピン人材本人が出国審査でOECを提示する
- フィリピン人材が来日、入国審査で在留資格認定証明書とパスポートを提示、審査が終わると在留カードが渡される(成田、羽田、中部、関西、新千歳、広島、福岡以外の空海港から入国の場合は、後日交付)
- 就労開始
なお、OECの有効期限は60日間です。また、OECは海外で就労するフィリピン人材が出国する都度取得が必要なため、雇用するフィリピン人材が帰省などで一時帰国する場合は、再入国許可申請とOEC免除申請が必要です。
OEC免除申請は、有効期限の切れたOECを照合する必要があり、フィリピン人材本人がBM Onlineから手続きします。
ただし、OEC免除申請は出国時と同じ雇用主、かつ同じ就労場所に戻る場合のみ適用されます。
参考:弁護士法人Global HR Strategy 外国人雇用相談室
日本在住のフィリピン人を雇用する場合
既に日本で就労しているフィリピン人材を雇用する場合も、在留資格によってはMWOに申請し、OECの取得が必要です。
どのような在留資格の場合MWO申請が必要か、下表で確認しておきましょう。
MWO申請の有無 | 代表的な在留資格 |
---|---|
MWO申請が必要な 在留資格 | ・高度専門職、技術・人文知識 ・国際業務、特定技能、介護、技能、技能実習など 就労が認められる在留資格 (ただし、企業内転勤は除く) ・就労が許可された特定活動 |
MWO申請が不要な 在留資格 | ・企業内転勤 ・永住者、定住者、日本人の配偶者等といった身分 ・地位に基づく在留資格 ・就労が許可されていない特定活動 |
例えば、介護や特定技能などの在留資格を持つフィリピン人材を雇用し、技術・人文知識・国際業務に変更する場合は、在留資格変更の手続きに加えて、MWOへの申請が必要です。
在留資格を変更してもMWOに申請をしていないと、雇用後に一時帰国した場合フィリピンから出国できなくなってしまいます。
※2023年12月現在、フィリピン人の方にも多い在留資格「特定技能」「技能実習」は、制度の改正に向けて審議が進められています。移行予定の新制度「育成就労制度(仮称)」については、以下の記事で解説しています。
参考:弁護士法人Global HR Strategy 外国人雇用相談室
国内外の労働法制に精通している弁護士・杉田昌平氏の専門的な知見のもと、「外国人雇用で適用される法令」「不法就労のリスクと予防策」など、外国人雇用の実務に必要な基礎知識をまとめました。
送り出し機関を介さず直接雇用できるケース
フィリピンでは海外企業による直接雇用が禁じられていますが、一部の特例によって直接雇用が許可されます。
直接雇用の対象になるフィリピン人材は、専門家や熟練労働者などです。しかし、年齢や資格、学歴などの本人要件があり、また受け入れ企業に対しても、給与や福利厚生といった雇用契約内容に関する規定や雇用人数の制限があります。
直接雇用はこれらのさまざまな要件を満たす必要があり、あくまでも特例的な措置です。適用されるのは簡単ではないため、実際にはほとんどの企業が送り出し機関を介してフィリピン人材を雇用しています。
参考)
Republic of the Philippines DEPARTMENT OF MIGRANT WORKERS
「ABOUT THE DMW」(閲覧日:2023年12月11日)
「LICENSED RECRUITMENT AGENCIES」(閲覧日:2023年12月11日)
「21 Questions and Answers about Direct Hiring 21 Mga Tanong at Sagot Tungkol sa Direct Hiring」(閲覧日:2023年12月11日)
「FREQUENTLY ASKED QUESTIONS」(閲覧日:2023年12月11日)
EMBASSY OF THE REPUBLIC OF THE PHILIPPINES Migrant Workers Office (MWO)Tokyo, Japan
「MWO ADVISORY NO. 2023-001NEW NAME AND OFFICIAL ADDRESES OF MWO-TOKYO」(閲覧日:2023年12月11日)
EMBASSY OF THE REPUBLIC OF THE PHILIPPINES
「Migrant Workers Office (MWO)」(閲覧日:2023年12月11日)
JITCO
「JITCOとの討議議事録(RD)の締結及び定期協議等」,(閲覧日:2023年12月11日)
出入国在留管理庁
「フィリピンに関する情報」(閲覧日:2023年12月11日)
「出入国港での手続 / 市区町村での手続 / 地方出入国在留管理官署での手続」(閲覧日:2023年12月11日)
法務省
「フィリピン側の手続に関するQ&A」, https://www.moj.go.jp/isa/content/930004802.pdf(閲覧日:2023年12月11日)
「~特定技能外国人の受入機関の方々へ~フィリピン国籍の方々を特定技能外国人として受け入れるまでの手続の流れ」(閲覧日:2023年12月11日)
Republic of the Philippines
「APPLICATION FOR THE EXEMPTION FROM THE BAN ON DIRECT HIRE」(閲覧日:2023年12月11日)Philippine Overseas Employment
Administration Pre-Employment Service Office- Landbased Center
「REQUIREMENTS FOR EVALUATION OF DIRECT HIRE APPLICATION PROFESSIONAL AND SKILLED WORKERS(All documents to be submitted must be in duplicates)」(閲覧日:2023年12月11日)