【改正入管法の基本】特定技能や法案の課題を解説
外国人材を受け入れる企業にとって、日本における外国人の在留や難民認定などについて定める入管法の知識は必須です。本稿では、2019年、2023年の入管法改正案の内容をはじめ、企業側が人権を尊重しながら外国人材を適切に雇用・管理するための基本的なポイントを解説します。
国内外の労働法制に精通している弁護士・杉田昌平氏の専門的な知見のもと、「外国人雇用で適用される法令」「不法就労のリスクと予防策」など、外国人雇用の実務に必要な基礎知識をまとめました。
入管法とは
入管法(出入国管理及び難民認定法)とは、日本に入国または日本から出国する全ての人の出入国を公正に管理したり、難民の認定手続きを整備したりするために作られた法律のことです。
入管法では、在留資格の取得や変更の手続き、在留カードの交付手続き、住居地や氏名などの変更の届け出の他、不法滞在者に対する退去強制手続きや、通報に関することなどが定められています。
入管法は不法滞在や不法就労を防ぐ基盤となっており、世論や社会状況に合わせて改正が重ねられています。
参考:弁護士法人Global HR Strategy 外国人雇用相談室
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2019年の入管法の改正ポイント
2019年には、生産年齢人口の減少による深刻な人手不足を解消するために、新たな在留資格「特定技能1号」「特定技能2号」が創設されました。
特定技能とは、人手不足が顕著な特定産業分野において、一定の専門性・技能を有する外国人が取得できる在留資格のことです。
特定技能外国人は、永住者といった身分に基づく在留資格を持つ人や技能実習生など、一部の外国人材にしか認められていない現業・サービスの現場での業務が許可されていることが特徴です。
加えて、特定技能1号は技能試験と日本語試験に合格した人が取得できる在留資格のため、企業にとっては即戦力となる人材の獲得につながります。
2023年12月現在、特定技能制度および技能実習制度は改正に向けて審議が進められています。移行予定の新制度「育成就労制度(仮称)」については以下の記事で解説しています。
参考:弁護士法人Global HR Strategy 外国人雇用相談室
2021年の入管法改正案の採決見送り
2021年2月には、退去強制となった外国人の収容施設への長期収容を解消するなどの目的で、入管法改正案が国会に提出されました。しかし、人権上問題があるとして、同年5月に見送りになっています。
主な問題点は下記3点です。
・難民認定手続きを3回以上行った場合、申請中であっても退去させることができる
・退去命令に従わなかった外国人に対して、刑事罰を含めた新たな罰則を設ける
・収容に代わり、監理人を選定し、その監理下で外国人を生活させる監理措置制度を創設する
そもそも日本は諸外国に比べて難民認定率が低く、国際的に保護されるべき人が難民として認められていないとして国連機関などから再三改善を求められています。
2021年の改正案では新たな制度の導入や改正などが盛り込まれていますが、「収容期間に上限がない」「収容に際して裁判所のチェックがない」など国連人権理事会の特別報告者などから指摘された問題点は改善されていません。
同改正案の内容は、日本に逃れてきた難民の処遇悪化や外国人への人権侵害につながる恐れがあるとして、与野党から批判が噴出しました。
併せて2021年3月6日に名古屋出入国在留管理局の施設に収容されていたスリランカ国籍の女性が死亡したことから、市民の間でも改正案への批判の声が高まり、廃案につながったのです。
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2023年の改正入管法の成立
2023年には、2019年に廃案となった改正案とほぼ同じ内容の改正案が国会に提出され、同年6月に可決されました。
改正入管法で問題となるのは、迅速な送還を優先するために、国内外から指摘されていた収容制度や難民認定制度の課題を根本から見直していない点です。
実際、2023年4月には国連人権理事会の特別報告者から、「国際人権基準を下回っているため、国際人権法に沿った法案になるよう徹底的に見直すこと」を求められています。
しかし、政府側は「書簡は公的拘束力がない」として改正案の見直しに応じる姿勢を見せていません。
このまま国際的に守るべき人を守らない姿勢を通し続ければ、日本は人権後進国として外国人材に選ばれなくなる恐れがあります。多様性のある共生社会を実現するためにも、国際ルールに沿った人権意識を持つことが求められます。
国内外の労働法制に精通している弁護士・杉田昌平氏の専門的な知見のもと、「外国人雇用で適用される法令」「不法就労のリスクと予防策」など、外国人雇用の実務に必要な基礎知識をまとめました。
入管法違反を防ぐために、企業側ができること
不法残留や不法就労などで入管法違反となる外国人の中には、劣悪な職場環境から逃げてきたなど、やむを得ぬ事情があって在留資格を失っている人もいます。
企業側が適正に外国人材を受け入れるためには、採用時に外国人材の在留資格や在留期間を在留カードで確認することが必要です。また、外国人材にも日本の労働関係法令が適用されるため、賃金や労働時間などにおいて国籍を理由に差別的な扱いをすることは認められません。
その他、就業規則などは外国人材の母国語で作成するなど、外国人材が理解しやすいよう工夫しましょう。外国人材が働きやすいよう、社内制度の見直しや公私ともにフォローできる体制づくりなども求められます。
いずれの場合もコンプライアンス意識の醸成が必要不可欠のため、経営層から現場レベルまで従業員一人一人が意識を統一できるよう研修などで教育しましょう。
参考:弁護士法人Global HR Strategy 外国人雇用相談室
参考:
出入国在留管理庁
「最近の入管法改正」(閲覧日:2023年10月28日)
「特定技能ガイドブック~特定技能外国人の雇用を考えている事業者の方へ~」(閲覧日:2023年10月28日)
「出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律の概要について」(閲覧日:2023年10月28日)
「国連人権理事会の特別報告者及び恣意的拘禁作業部会による公開書簡に対する日本政府の回答について」 2023年10月12日公表(閲覧日:2023年10月28日)
デジタル庁「昭和二十六年政令第三百十九号出入国管理及び難民認定法」,『e-GOV法令検索』(閲覧日:2023年10月28日)
法務省「外国人を雇用する事業主の皆様へ「不法就労防止にご協力ください。」」(閲覧日:2023年10月28日)
厚生労働省「外国人を雇用する事業主の皆さまへ外国人雇用はルールを守って適正に」2023年6月公表(閲覧日:2023年10月28日)
日本弁護士連合会「出入国管理及び難民認定法改正案(政府提出)に対する会長声明」(閲覧日:2023年10月28日)
朝日新聞DIGITAL「入管の体制不備を指摘 スリランカ女性死亡で最終報告」2021年8月10日(閲覧日:2023年10月28日)
東京新聞TOKYO WEB
「疑念だらけなのに議論打ち切り 入管難民法改正案の残された問題とは 「外国人の命が危機」の声上がる」2023年6月9日(閲覧日:2023年10月28日)
「国連特別報告者の指摘をまた無視するの? 「入管難民法改正案は国際人権基準を満たさず」に日本政府が反発」2023年4月25日(閲覧日:2023年10月28日)
特定非営利活動法人 なんみんフォーラム「移住者の人権に関する特別報告者、恣意的拘禁作業部会、及び、宗教または信条の自由に関する特別報告者の任務」,2023年4月18日(閲覧日:2023年10月28日)